皆さまこんにちは。エーテルスタッフの遊佐です。
本日で連載2回目の「エーテル美術館」。花を描いた名画のエピソードのご紹介と、実際にその花を現代の私たちの暮らしになじむようにもっと気軽に、もっとコンパクトに活けてみよう、というコラムです。
今回ご紹介させていただくのはピエール=オーギュスト・ルノワール作の『菊の花束』。
秋にピッタリな、優しくて温かみのある絵画です。
美術館で過ごすひとときのように、のんびりとご覧になってください。
変化の秋 ルノワールの新たな一歩
猛烈な暑さがほんの少しやわらぎ、激しい雷雨を連れて9月がやってきました。
この時期に毎年聞きたくなるのは、竹内まりやさんの名曲「SEPTEMBER」。夏の終わりとともに彼が心変わりしてしまった…という切ない曲です。
秋は別れと出会いの季節。そして、実りの秋なんて言葉があるように、新しいことをはじめるのに適した季節だとも言われていますね。
ルノワールが画家になることを決意し、画塾の門を叩いたのも1861年の秋のことでした。
のちに「印象派」という全く新しい絵画のジャンルを共に確立していく戦友、クロード・モネやフレデリック・バジールと出会ったのもこの頃。
産業革命による機械化で絵付け職人の職を失いながらも、画家として新しい一歩を踏み出し生涯の友を得る…ルノワールにとってもこの秋は出会いと別れ、変化の季節だったのですね。
幸福の画家が描いた菊
ルノワールの代表作といえば「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」。ダンスホールで語らい踊る人々を幸福感いっぱいに描いた絵です。
「人生は不快なものだから、幸せな絵だけを描く」と言い切るほど幸せにこだわったルノワール。「悲しい絵を一枚も描かない唯一の画家」として、親しみを込めて”幸福の画家”と呼ばれました。
それらの経緯から人々の幸せな暮らしを描いた絵が多いのですが、花をモチーフにした静止画も多数残っています。 ふんわりと発光するように優しい暖かさ、そしてルノワール特有の何とも言えない幸福感を湛えたこの絵もその一枚。
『菊の花束』が描かれたのは、ちょうどヨーロッパで菊が流行り始めた頃。その美しさにルノワールも夢中になり、計三枚菊の絵を描きました。
”幸福感”に関しては共通しているのですが、三枚とも色合いや表情がそれぞれ異なります。 他の二枚は個人所蔵のため実物を見ることは難しいのですが、こちらの絵はシカゴ美術館に所蔵されています。
秋の長夜に、ルノワール風の菊を
“幸福の画家”ルノワールも愛した菊の花。サクラと並ぶ国花であることや、皇室の紋章としても使われているため、日本では格調高い縁起の良い花とされています。
毎年各地で開かれている菊花展(菊まつり)や、振袖の定番の菊花柄。これらのことからも、昔から菊が縁起物として大切にされてきたことが分かりますね。
菊は冠婚葬祭のすべてに用いられるほど位の高い花。お供え物としても使われるため、プレゼントにはすこし注意が必要です。
ですが、香りもすばらしく色形も華やかですから、『菊の花束』に描かれたほど大きなサイズでなくとも、ちょっとした贅沢としてご自宅に飾ってみるのはいかがでしょうか。
使用するのは、小振りな花びらがかわいいスプレー菊やピンポンマム、同じくキク科のダリア。 ダリアは9月の誕生月花でもあるので、今の時期にピッタリですね。(花言葉は『優雅』『華麗』など。)
よく見るタイプの大輪の菊も、淡いピンク色を選べばシックでフェミニンな印象に。 日持ちする花なので、長く綺麗な状態を楽しめるのも嬉しいですね。
絵を参考に菊の花を飾ったら、ぜひお試しいただきたいのが『菊酒』。
9月9日の重陽の節句(菊の節句)に菊を鑑賞しながら菊酒を飲むと、厄除けや長寿になると言われています。
菊酒の作り方は、食用菊の花びらをちぎって日本酒に浮かべるだけ。
菊酒はあくまでも菊の香りが主役なので、使う日本酒は香りが優しいものがおすすめです。花を一輪まるごと使えば、見た目にも華やかでお祝いの席にぴったり。
菊を日本酒に浸したまま一晩置くともっと本格的な菊酒ができますが、上記の作り方でも十分香りを楽しめます。
秋の長夜に、菊を飾って菊酒を飲む… そんな丁寧な季節の過ごし方も、ルノワールの愛した「幸福」のひとつではないでしょうか。
家でもアートを楽しむ
近年、著作権の切れた美術品をpublic domain(著作権フリー)で公開する美術館が増えてきています。
今回ご紹介した「菊の花束」もその一つ。
この絵を所蔵するシカゴ美術館の公式サイトでは、5万点以上の作品を無料で閲覧、ダウンロードすることができます。
絵画だけでなく、花瓶や宝石など様々なジャンルの芸術品を見ることができます。家でゆっくりと過ごす時間にもぴったりなので、ぜひ活用してみてくださいね。
「花と絵画」、次回の更新は10月上旬頃を予定しています。
美術館に遊びに行くような気軽な気持ちで、ぜひまたご覧ください。