小さなキーケースに込められた
職人の「粋」をたずねて
― 東京・浅草 ―

東京スカイツリーをのぞむ街・浅草。実は革製品の製造に関して、クオリティ、生産量ともに国内トップクラスの街でもあります。江戸時代、江戸城の東にあたる地域では各地で同業の職人や問屋が集まり、町を形成してきました。その名残を今に伝える浅草は、都内でもめずらしい地域の一つでもあります。

今回私たちが訪れたのは、キーケース、財布をはじめとするエーテルの革小物の製作を担う、台東区・元浅草の工房。大通りから少し離れた建物の1室で、エーテルの製品が生み出されています。

――残暑という言葉が似つかわしくないくらい、柔らかな日差しに包まれた午後2時。穏やかな光が注ぐ窓際で、1人の職人が黙々とキーケースの製作に取り組んでいました。33年の職人歴をもつ、深山さん。製作以外にも、国内の生産の管理と、海外とのやり取りをも担っているといいます。同じ室内には、他にも2人の職人が。シン・・と静かな部屋の中で、作業をする音だけが響きわたります。

仕上がりの美しさを左右する、0.02mm単位の調整

キーケースは裁断された細かいパーツの集合体。パーツ製作の前準備として、裁断された革を使用箇所に合わせて薄く削ることを「漉(す)き」といいます。
「ほんの一瞬の作業だけど、漉き具合によっては仕上がりに大きく影響するから慎重にね。」と語る深山さんの手元には、少しの迷いもありません。

パーツごとに0.01ミリ単位で革の厚みを調整する大変難しい職人技ですが革小物の製作にとっては最も重要とされています。

熟練の職人の手に掛かれば、見事にまっすぐで均等な漉きに。(私も挑戦させていただきましたが、素人には至難の業。漉きすぎて革の一部を破いてしまいました・・。)
漉いた革を内側へ折り曲げ、芯材と内装生地と貼り合わせていきます。

細部にも、こだわり。世界に誇る日本の職人技術

芯材、内装生地と貼り合わせた革は、端を処理する「菊寄せ」と「念引き」という加工を施します。それぞれ非常に高度な技術で、革の粘着性を高める効果がありますが、見た目にも美しいアクセントを加えています。

キーケースの角に当たる曲線の革を細かく寄せてひだを作り、美しい扇形に整えることを「菊寄せ」と呼びます。表からは見えない箇所にはなりますが、ここを均等にするほど無駄な厚みを抑えられ、美しく仕上げることができます。一方、革のヘリに1本のラインを平行に入れる仕上げ工程のことを「念引き」と呼びます。ヘリ先数ミリの場所に熱したコテで圧力を加えまっすぐなラインを引いていくことで、製品の表情がぐっと引き締まるのです。

どちらも日本が世界に誇る伝統の職人技とされ、高級ブランドであってもこの技法を踏んでいないものも多くあります。

何度も磨き、丁寧に塗り上げられたコバ

「コバ」とは革の裁断面のこと。この革の切り口の毛羽立っている部分を丁寧に磨いて繊維を締め、強度を高めるとともにコバの表面を美しく整えます。1度で終わる作業ではなく、下塗り、本塗り、仕上げ塗りと何度も重ねて塗ることでより艶やかで美しく仕上がります。
通常はやや厚みのある革に施される処理ですが、エーテルの場合、わずか1mm幅のヘアレザーにもコバ塗りをしています。こうすることで、毛並みの抜け落ちを防ぎ、丈夫なつくりに仕上げています。

すべてのパーツにそれぞれ必要な加工を施し終わったら、いよいよ金具を取り付けて完成です。静かな空間で、ゆっくりと、そして丁寧に1つ1つの工程を仕上げていく姿に思わず息を飲む場面も・・。キーケースという小さなものにも、余すことなく注がれる職人の心意気。手にしたときに感じ取っていただけることを願って・・。